サムライシンジの写真

20歳くらいの頃、まだ地元の福岡にいた頃の話。
オススメのバンドがあるからと
友人に連れられてライブハウスに行った。

アマチュアバンドのライブ。

いくつかのバンドが出演する
よくあるライブだった。
当時、身近なアマチュアバンドで
かっこいいバンドなんて出会ったことがなかった私は
正直全然気乗りしなかった。

会場に着くと、入り口で友人が
「久しぶり!」
てな調子で1人の兄ちゃんと話していた。

何番目かに、やっと友人オススメのバンドの出番になった。
「あ、さっきの兄ちゃんやん。」
友人オススメのバンドはあの兄ちゃんのバンドだったのか。
どうやらボーカルギターらしい。

佇まいは至って普通。
ジーパンにTシャツ。
ギターは赤いサイクロン。

セッティングが終わりライブが始まった。
バンド全体で出した最初の音がドカンと私に直撃した。
衝撃的な音だった。
その時のライブでその音を何発も喰らった気がする。
私は釘付けになってしまった。 

ボーカルギターのお兄ちゃんも
もう1人のギタリストも
決してギターは上手ではなかった
むしろ下手だと思った。
しかし凄まじくカッコよかった。
そしてカッコいい音を出していた。

私よりもギターは下手だが
私よりも何倍もかっこいいと感じた。

それ以来、そのバンドを何度も見にいった。
CDも買って毎日聴いた。
すっかりファンになってしまった。

そのバンドのライブにはいつも
カッコいいバンドが対バンで出演していた。
みんな大して上手くはなかったが、
信じられないくらいカッコよかった。

こうなると逆立ちしたって勝ち目はない。
私がいくら練習したとてあんな音は出せない。
完全にノックダウンされた。
とても悔しかった。

当時私が組んでいたバンドなどとは
比べ物にならないくらいカッコよかった。
同年代で身近にあんなにカッコいいバンドがいるのかと。
あまりの悔しさに夜、部屋で1人で泣いたことがある。
1度だけではなく何度も泣いた。
それくらい悔しかった。

20年以上経って、あの時の感情が懐かしく、
そして当時の自分が可愛く思える。
当たり前のように人生色々あった中の感情の一欠片でしかないが、
その一欠片が今の私の音の中にあるのは間違いない。
練習だけでは出すことの出来ない音だ。